妊娠中の薬剤師にとって、産休中や育休中に手当てが出るとなんとなく知っていても、もらえる金額などわからないことが多いという人もいるのではないでしょうか?もらえるお金には全ての人が共通してもらえるお金、働き方に応じてもらえるお金があります。出産前に知っておきたい、税金ともらえるお金について解説していきます。
毎月の給与明細に所得税や厚生年金でかなりの金額引かれているけれど、その算出方法について知らないという方がほとんどだと思います。また、年金だけでなく、出産手当金などの計算において基礎となるのは標準報酬月額です。ここでは、その算出方法について解説します。
所得税の算出方法
所得税=課税所得×税率-税額控除額
この課税所得というのは、総支給額(基本給・残業代・手当)から非課税の手当(通勤手当など)と所得控除(ほとんどの人は48万円)を引いたものになります。
税額控除というのは、ふるさと納税や住宅ローン控除が該当します。
標準報酬月額の算出方法
厚生年金などの社会保険料は、毎年9月に4月から6月の報酬月額を元に標準報酬月額を出し、これと、賞与(標準賞与額)に共通の保険率をかけて決められます。
標準報酬月額は、1カ月あたりの給料(基本給だけでなく、通勤手当や家族手当、住宅手当、役職手当などの手当も含むもの)を1等級から31等級に区分した額で、標準賞与額は税引き前の賞与額から1000円未満の端数を切り捨てた額となります。標準賞与額は1回の支給につき150万円が上限となっているのも特徴です。
具体的な表については、「日本年金機構、厚生年金の保険料」と検索していただくと、一覧が出てきます。県によっても微妙に異なるのでわからなければ、人事担当者に聞いていただいてもいいかと思います。
例えば、東京都で基本給25万、薬剤師手当5万、通勤手当2万、家族手当1万、住宅手当4万だとすると、標準報酬月額は36万円となります。
では具体的に、出産時以降にもらうことのできるお金はどのようなものがあるのでしょうか。
出産育児給付金:
健康保険組合からもらえるものです。働いている働いていないにかかわらず、赤ちゃん1人あたり42万円が支給されます。多胎児だとその人数分の支給があります。産院に直接支払いができるため、産院から案内がある場合がほとんどです。正直、産後すぐに手続きをするのはとっても大変なので、直接支払いを利用したほうがいいです。
出産手当金:
加入の健康保険から受け取れるお金です。次の3つの条件を満たすことが必要となります。
①勤務先の健康保険に加入している。(自営業やフリーランスは対象にならない)
②妊娠4ヶ月以降の出産などであること(妊娠4カ月(85日)以降の出産や、流産・死産・人工中絶などをしていることが対象です。85日未満の流産などに対しては給付されません。)
③出産のために休業をしていること
既に退職した人・退職予定者も次の2つの条件を満たせば出産手当金の対象となります。
①退職日まで継続して1年以上健康保険に加入していること
②出産手当金の支給期間内(出産予定日前42日+出産予定日から遅れた出産日までの日数+産後56日)に退職していること
出産を機に一度退職を考えている人はこの2つの条件を満たすように退職日を設定するのがお勧めです。
もらえる1日当たりの金額
支給開始日以前12カ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×(2/3)
目安の金額が知りたい場合は前項の標準月額報酬を参考に計算してみて下さい。自分で計算するのが大変な方は、健康保険組合に問い合わせることも可能です。
ここで一つ注意事項が。
出産手当金は申請が受理されてから1~2カ月後に振り込まれます。申請は出産した後にしかできないため、産前の産休中から出産後2カ月近くは無給という状態になります。出産前後は何かとお金が必要になる時期でもあります。しっかり生活資金プラスαを確保しておくことをお勧めします。
育児休業給付金:
ハローワークから支給される給付金です。具体的な金額は、育児休業開始前の6ヶ月(月に11日以上働いた月)の賃金を180日で割った休業開始時賃金日額と言うものを計算します。これに、休業開始後6ヶ月なら67%、6ヶ月経過後なら50%をかけ、1日あたりの給付金額を算出します。
目安として、基本給25万、薬剤師手当5万、通勤手当2万、家族手当1万、住宅手当4万だとすると、休業開始時賃金は約1万2330円となり、6ヶ月までは8220円、それ以降は6170円が1日あたりの給付金額となります。この育児休業給付金は所得税などの税金が掛からないので、そのまま受け取ることができます。ですので、この給付金があれば、意外とお金の心配をしなくても大丈夫だった、子供にもしっかりお金がかけれたというケースもあるようです。
ここで注意したいのが、妊娠中に時短勤務をしている場合です。時短勤務をすると1日当たりの給与が下がります。頑張って時短勤務で月に11日以上働いていると、下がった月の給与が計算対象になってしまい、給付金の金額が大きく変わってしまう可能性があるのです。中には、有給を時間単位で使用できるため、給与には影響しないと言う人もいるでしょう。ご自身がどちらに該当するのかは確認が必要です。
お金のことだけを考えると、無理して、毎日時短で働くよりかは、スパっと休みまくった(月10日以下の勤務)ほうがその後の給付金が多いという可能性が高いです。
ここは、勤務先の意向もあると思うので、上手にコミュニケーションをとりながら進めたいところですね。
毎年11月~12月になるとやってくる年末調整。産休に入った時期によっては年末調整の申請用紙が来るのではないでしょうか。結論から先に言うと、夫と妻の1月から12月までの年収を比べて、夫の方が高い場合は夫で妻の分の生命保険なども提出しましょう。生命保険は妻名義だしなぁなんて思う必要はありません。制度上、夫と妻どちらか一方にまとめて申告することが可能となっています。年収が高い方で手続きしたほうが控除額も増え、還付金も増える可能性があります。
育休にでまるっと1年休業しているといった場合にも夫で申告することが可能です。
年末調整は払い過ぎた税金が戻ってくる制度なので、忘れずに申告しましょう。
医療費が規定の額以上にかかった年は確定申告で医療費控除の手続きをすれば、還付金が戻ってくることもあります。
妊婦検診も対象になるので、妊娠した年、出産した年、それぞれ確認する必要があります。
確定申告は1月1日から12月31日を1年とし、家族全員の医療費の合計が10万を超える場合が対象です。産休・育休中で税金を払っていない場合は還付されないので、夫で手続きをしましょう。
手続きは住民票がある地域の税務署で行います。新型コロナへの対策の一環で受付期間が例年よりも長く設定されている可能性があるので、受付時期についてはH Pなどで確認して下さい。自宅で確定申告書を作成し、税務署に持ち込みか郵送、e-Taxで提出します。
「確定申告 申請書」で検索すると、国税庁の確定申告特集サイトを見つけることができると思います。
初めて確定申告をするという方は、年明けに職場から届く源泉徴収票を準備して、国税庁の確定申告特集サイトから入力をしていくと、自宅で作業ができます。ホームページには医療費控除の詳細を入れるエクセルファイルがあるので、ダウンロード後入力して、そのほかの確定申告に必要な項目も入力して印刷すればO K。税務署に持っていけば受理した証明の判子も押してもらえるので、この方法をお勧めします。
普段ふるさと納税でワンストップ制度を使っている方もいると思いますが、確定申告をする場合にはワンストップ制度は使えないので(こっそり、ふるさと納税のホームページにも記載あります)注意しましょう。
医療費として認められるもの
・妊婦検診費(自費となっていた部分も対象)
・分娩費、入院費(出産一時金42万円は差し引く)
・診療、治療費(歯科も含む)
・治療に必要な薬代
・治療のための鍼やマッサージ代(助産院でのおっぱいマッサージもこれに該当!!)
・通院にかかった電車代やバス代(ICカードで払っていてもきちんとメモに残せばO K)
・出産時のタクシー代や駐車場代(ガソリン代は入らないので注意)
・医者が必要と認めた松葉杖や補聴器などの購入費(電動の鼻水吸引器も該当、体温計、搾乳機は非該当)
申請するにあたってのポイント
・妊婦検診の自費部分も対象になるので、医療費の領収書は全てなくさず保管。
・生まれた子の成長が少しゆっくりだった、あるいは、黄疸があったなどで、生後すぐに定期的に産婦人科に通った場合も対象になります。
・医療費控除が発生しそうな年は家族の歯の治療も。もちろん妊婦さんは産前に治療をしておきましょう。
・年明けにもらえる源泉徴収票は無くさないように。
・ふるさと納税をしている人は、ワンストップ制度を使わない。
昨今のご時世、夫も育休の制度があって、会社から取得をすすめられるという方もいると思います。
妻の体調もよく、取得時期を選べる環境であれば、ボーナス月の月末がお勧めです。理由は、社会保険料が免除されるから。その月の給与とボーナスのW効果があるため、ボーナス月の月末がお勧めなのです。会社的にも社会保険料が免除されるので、金銭的には良いのですが、手続きが色々あるので大変かもしれません。
これは2021年まで有効な方法です。それ以降は、1月丸々休まないと社会保険料の免除にならなくなります。
男性の育休については今まさに法整備がされているところなので、今後に期待したいと思います。
いかがでしたか。妊娠中から気をつけておきたい妊娠・出産に関係する税金や給付金について記してきました。もし、妊娠中の体調が良いという方は残業や日当直をして少しでもその後の給付金をアップさせようと考えるのも一つの手段だと思います。もちろん、つわりなど体調が優れない場合には、無理せず仕事も休んだり、ゆったりと過ごしたりするのが何よりも大事です。
出産後は何かとバタバタしますし、夫婦で家計を共有しているので、必要な手続きは妻だけが行うのではなく、夫主導で行えるように、医療費控除などはある程度まとめておくなどの対策を取れるといいですね。