医療技術が発達し平均寿命が延びたいま、「人生100年時代」といわれる時代を私たちは今生きていますが、老後のことを皆さんは考えていますか?
人生100年時代においては、「60歳になったら定年退職して、年金をいながらのんびりした老後を、、、」という考えをしていたら、大きく計画が狂うかもしれません。
お金の悩みというのは尽きないものと思います。
結婚、子育て、マイホーム、車など、長い人生を生きる中で何かとお金が必要です。そんな中日本の平均賃金は先進国で唯一上昇しておらず、一方で税負担などが増していることを考えると、老後のことを考えながら今を生きるのは非常に息苦しい人も多いのではないでしょうか。
薬剤師の皆さんは「薬剤師」という職業が一般的にどのくらいの収入なのかご存じでしょうか。
平成31年度のデータでは薬剤師の平均年収が590万円、中央値が436万円となっております。(中央値とは、数値のデータを上から数えて真ん中にくる数字のことを言い、平均だと一部の突出して高い人が平均を押し上げてしまうのに対し、より現実的なデータを見ることができます。)
ちなみに日本の年収中央値が370万円といわれているので、比較すると一般的に薬剤師という働き方は収入が高いことがわかります。
一般的に収入が高いといわれても、それでも老後の話となると不安がありますよね。
2019年に老後資金2000万円問題が騒がれましたが、皆さんこの“老後資金2000万円問題”をご存じでしょうか?
金融庁の発表で、夫婦で老後を迎えた場合、年金とは別に2000万円を用意しないと生活費が不足するということを発表しました。金融庁としては、老後資金を自分で作るために「投資を通じて資産形成をしましょう」ということを主張したくて発表したつもりが、メディアを通して周知されることにより「年金という制度がありながら、2000万円必要とはなにごとか」という風にとらえられてしまった事件です。
具体的にいうと夫65歳、妻60歳の夫婦が無職で生活すると、最低限の生活だけでも毎月5.5万円が不足するため、30年生きると仮定すると2000万円ほどの不足になるというものです。ちなみにあくまで最低限の生活なので、住宅の改修や医療保険、孫へのプレゼントなどそういった豊かな老後を過ごすのであれば、3000万円以上必要と言われています。
この「老後資金2000万円問題」の影響で、漠然と老後の生活に不安を感じるようになった若い方は多いと思われます。では、老後までに貯蓄で2000万円ためるというのは現実的なのでしょうか。
あなたが30歳から30年間貯蓄をするとします。薬剤師の年収中央値が436万円なので、単純に月収は37万弱になります。そこから税金などを引かれて、住宅費や生活費を支払いながら毎月5.5万円貯蓄しなければ60歳までに2000万円貯めることはできません。
あくまで中央値で試算したため、これから収入が上がることを想定しても、これからの人生で結婚資金や子供の教育費、車、住宅、保険などもあることを考えるととても貯められる額ではありません。
仮に年率4%で資産運用できるとすると、月に積み立てる資金は2.8万円で2000万円が貯められる計算になるため、老後資金に備えて投資をしていくことが推奨されています。
さて、前置きが長くなりましたが、資産運用について様々な方法がある中でも「iDeCo」について皆さんご存じでしょうか?
iDeCoは老後資金2000万円問題ですごく注目されている制度で、薬剤師の皆さんには特に適合した方法ですので、解説していきます。
iDeCoとは個人型確定拠出年金です。名前に年金と入っていますが、公的年金とは別に個人で作る年金になります。
ここで念のため解説すると公的年金とは国民年金と厚生年金があります。
国民年金は20歳以上60歳未満のすべての人が必ず加入する年金で、2階建ての1階部分と言われる年金になります。厚生年金は65歳までの企業勤めして働いている方が加入する年金で、2階の部分になります。企業と折半で支払い、将来もらえる年金が国民年金のみの場合より多くなります。
独立などされず勤めている薬剤師の方は上記の2階建ての年金に加入していると思われます。
iDeCoというのはそれら2階建ての年金に加えて3階の部分となる制度であり、公的年金に加えて利用することで、うまくいけば将来もらえる年金を自分で増やすことのできる制度です。
公的年金と同様、掛け金として毎月一定額を口座から引き落としすことで利用でき、掛け金は最低5,000円からできるので、お気軽にはじめられます。
iDeCoが何なのかざっくり分かったところで、具体的にiDeCoの特徴を説明します。
①節税ができる
皆さんは毎月お給料をもらう時、明細はしっかり見ていますでしょうか?あなたの給料が毎月25万ほど口座に振り込まれているとしたら、総支給は30万ほど記載されてますよね?なぜ手取りになると少なくなるのかというと、税金が引かれているからです。(実際には年金や、雇用保険などいろいろなものが引かれていると思いますが)税金がなかったらもっともらえてるわけですが、日本で働いているならば税金からは逃れられません。ところがiDeCoを利用することで資産運用と同時に税金の節約をすることができます。
・積立時
勤められている方は給料天引きで毎月所得税・住民税として支払っていることになります。
iDeCoでは毎月一定の金額を掛け金として拠出することになるのですが、この時の掛け金が所得税・住民税から控除されます。
・運用時
例えば投資信託を運用して利益を得ると、利益額のうち20.315%が所得税として引かれることになります。せっかく増やしたのに2割も持ってかれてしまうなんてたまったものじゃありません。
ところがiDeCoでは運用で得た利益が全て課税されません。
・受取時
実際に60歳まで運用し、受け取ることになった場合の話ですが、
一度に受け取る一時金受け取りと、少しずつ受け取る年金形式が選べます。
一時金として受け取ると「退職所得控除」が適用され、勤続年数に応じて多額の金額が非課税となります。年金形式で受け取ると公的年金と合算して適用される公的年金等所得控除として非課税を設けられます。非課税額はほかの年金所得などと合算して変わります。
②うまくいけば将来もらえる年金が増える可能性あり
ここまで「運用」や「利益」というワードを出しましたが、iDeCoは毎月支払った掛け金を投資信託などで運用するので、運用がうまくいけば将来もらえる年金は貯金した場合のみよりも多くなる可能性があります。
投資の大原則として、「長期」かつ「少額」で「少しずつ」行うことで、短期的に運用した場合よりも運用成果が高まりやすくなります。iDeCoは長い期間、少しずつ掛け金を拠出し増やしていく制度なので、まさに投資の大原則に適合しているのです。
③運用先を自分で選べる
投資というと「損をするかも」「勉強不足で右も左もわからない」といった心配をされる方も多いと思います。
iDeCoは各社で定められているいくつかの商品の中から、好きなものを自分で決めることができます。定められた商品ラインナップはどれも実績があり運用成果の出ているものばかりで、右も左もわからない初心者でも選びやすいです。
株式投資信託もあれば、保険や定期預金といった元本が保全された安全な商品もあるため、「元本割れの可能性は少しでも減らしたい」という方は、定期預金などの運用比率を高めて安全に運用することができます。
ただし定期預金など安全性に比重を寄せすぎるとそうでない場合より利回りは落ちるのでバランスが重要です。
次にiDeCoを活用するうえでの注意点について解説します。
①拠出した資金は引き出せない
iDeCoを活用するうえでここを許容できるかが一番重要です。
iDeCoで運用した掛け金は原則60歳になるまで引き出すことはできません(特定の条件下で引き出せますが、基本的に無理だと思ってください)
あなたが30歳であれば、この先30年どんな事情があっても掛けたお金に手を出すことができないんです。はじめたころはお金に余裕があっても、30年てかなり長いですから、急な資金の入用があるかもしれないことを念頭に置いておく必要があります。
②元本割れリスク
iDeCoはほかの投資手法に比べると比較的安全かつ、忙しい人も運用ができることがポイントですが、当然元本割れのリスクがあります。
投資の世界に“絶対”はありません。長期的運用を行うことで負けにくい運用が可能なのですが、長い間運用すれば相場の大暴落にほぼ必ず会うことになりますから、瞬間的に損失を抱えることもあるでしょう。
そういったことを想定して、あくまで余裕資金で運用することが大切です。
③手数料がかかる
iDeCoではわずかながら手数料が発生します。
これは支払うというより運用で勝手に引かれているイメージをしてください。
手数料はiDeCoの口座を開く証券会社によって変わりますのでよく確認してください。
ちなみに手数料が高いメリットは特にないので、手数料は安い会社を選びましょう。
ここまでiDeCoの特徴と気を付けるべき点を挙げましたが、iDeCo自体は制度として活用すべきメリットはたくさんあると同時に、気を付けなればいけない点を考えるとやるべき人とそうでない人に分かれる制度です。
ではなぜ薬剤師のあなたにiDeCoが適しているのかというと
からです。
①雇用が安定している
国家資格を取得して働いている薬剤師という職業はほかの職業と比較して、雇用が安定しています。超高齢化社会に突入している日本において、薬剤師の需要はそう簡単には消えないでしょう。
よく「AIにとって代わられる」といった悲観論も目立ちますが、AIが得意なのは「分析」や「大量のデータ処理」といったことで、「患者とのコミュニケーション」が必要な薬剤師はそう簡単には代われません。「AIに代替される」といった悲観論はどの職業でもあるものなので当分は気にしなくて大丈夫です。
iDeCoでは掛け金は引き出せないため、継続して運用し続けるには不安定な職であると相性が悪いです。雇用や収入で安定している薬剤師はiDeCoととても相性が良いです。
②収入が高水準
さきほど年収の中央値について説明しましたが、薬剤師は日本全体の収入と比較して、高水準です。iDeCoは毎月口座から引き落としされるという資金縛りが付くので、給与水準が低いと老後の生活以前に目の前の生活が苦しくなるため、ある程度収入がないと相性が悪いです。
くわえてiDeCoは掛け金拠出時の節税というメリットがありますが、節税というのはそもそも貰っている給料が低いとうまみが少なく、節税してる場合ではなくなります。収入が高い薬剤師は払っている税金も高いので、iDeCoによる節税メリットはより高くなるでしょう。
③忙しい片手間にできる
医療従事者である薬剤師はとにかく忙しいと思われます。投資は本来まともに運用するのであればとても勉強がいりますが薬剤師という職に携わるあなたが資産運用も両立するのは時間的に厳しいものがあります。
働きながら賢く資産運用したい方にとって、自動で引き落としながら投資先を分散できるiDeCoはとても相性が良いです。
一昔前は60歳で定年退職したら、ゆうちょ銀行といった銀行の定期預金に預けるだけで利息だけで生活できました。何故かというと当時の銀行金利は今の何千倍も高く、預けているだけで8%も利息が付く時代がありました。8%といったら、退職金が2000万だとしたら銀行に置いとくだけで年間160万円利息がもらえる計算になります。
現在は低金利の時代になり、銀行に置いても利率は0.01%以下のため、いくら預けても増えなくなりました。
そもそも日本の公的年金制度は、平均寿命が60歳半ば、55歳で定年退職し、老後を10年ちょっと生活することを前提に設計された古き制度です。平均寿命が20年も伸び、定年の概念が消えかけている今の代に合っていない制度にもなってきています。
そんな日本の公的年金制度だけを信じて将来設計を怠けるのはとても危険かもしれません。
収入が比較的高く、安定している薬剤師だからこそ、節税メリットを享受しながら、将来もらえるお金を賢く増やすことができる。そんなiDeCoをぜひはじめてみてはいかがでしょうか?